

企業にとってCIの中核を成すVIは経営理念や進むべき方向性を表す大切な“顔”だ。
絶えず変化していく時代の中で色褪せることなくメッセージを発し続ける優れたデザインは
クライアントとデザイナーのどのような関係性から導き出されるのか。
組織編成に伴い刷新した美術出版社のVIを例にその依頼背景を探る。
取材・文/杉瀬由希 *本記事は『デザインの現場』2008年12月号からの転載です。
方向性を探るに当たり、まず大下から渡された美術出版社グループの歴史や沿革、4社それぞれの社名や事業内容などの資料に目を通し、情報を分析・構築。同業他社との違いを明確にした上で、美術出版社の根幹である“美”に企業理念を集約させ、デザインを試行錯誤して行った。
「シンボルマークはコミュニケーションツールですから、デザイン背景には企業の社会的スタンスを表す物語が必要。そのベースとなっているのが“サポートクリエイション”というグループの企業理念です。“美の支点”を“創造の基点”にして社会のクリエイティブな活動を支えていく。その姿勢の象徴として“美”の字を用い、パーツを分解して回転させたこのデザインを考えました。一見文字とは分からない不思議な形だから、見た人は『これ何?』と尋ねるでしょう。そこでもうコミュニケーションは始まっているのです」
佐藤にとって依頼される仕事はひとつの入り口に過ぎない。その問題を解決する重要なカギが会社組織全体に潜んでいる場合も少なくないからだ。デザインには企業の姿勢が表れる。だからこそデザインのプロとして感じた問題点はすべて相手に伝え、依頼者と受注者という垣根を越えて共にベストな解決策を探っていくのが佐藤のやり方だ。
「患者が胃が痛いといっているからといって胃しか診ないのはヤブ医者でしょ? それはひとつの症状に過ぎないんですから。特にロゴは絶対に古くなってはいけないもの。10年経ってもびくともしないものにするためにも、要望さえあれば喜んで一からお手伝いさせていただきます」
あえて自らの“色”を抑え、モノや使い手本位のデザインに徹するのも、20代から変わらない佐藤のやり方だ。今回、グループの“顔”であるVIを佐藤に託した理由もまさにそこにあると大下はいう。
「古いけれど新しい、安定感のあるものを望んでいました。弊社の100余年の伝統と次代に向けた変化への志を深く理解していただいたデザインに、大変満足しています」
両者の新しいコミュニケーションは、まさに今始まったのだろう。
佐藤 卓・さとうたく
1955年東京生まれ。東京藝術大学大学院修了。電通を経て、1984年佐藤卓デザイン事務所を設立。主な仕事に「ニッカ・ピュアモルト」「ロッテ キシリトールガム」「デザインの解剖」シリーズ、NHK教育TV「にほんごであそぼ」など。
連絡先=佐藤卓デザイン事務所
東京都中央区銀座1-14-11 銀松ビル4F
TEL.03-3538-2051 tsdo@tsdo.co.jp




